カフェ・カンパニー「金目鯛の煮付け」定食開発の裏側:「一魚一会」の感動を千葉房総から世界に
- 健史 永尾
- 4 日前
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渋谷の「WIRED CAFE」をはじめ、全国の飲食・商業施設のプロデュースや運営を手がけるカフェ・カンパニー株式会社。同社が、千葉県市原市のサービスエリアの飲食店リニューアルを手掛けたのは2024年6月、ちょうど夏休みの繁忙期突入前の時期でした。
「地産地消」をテーマに、新たな目玉となる和定食メニューを開発したい。そんな要望に応え、株式会社FOODSLINKSの代表取締役・永尾健史が手掛けたのが、房総ブランド魚を贅沢に使った「金目鯛の煮付け定食」です。
このメニュー開発の裏側には、南房総で年間364日の出荷体制を誇る鮮魚のプロ集団、株式会社まるいの心強い協力がありました。「魚は一期一会ならぬ“一魚一会”」と、株式会社まるいの代表取締役・鈴木 大輔氏は語ります。
同じ美味しさの魚とは二度と出会えない、そんな鮮魚の世界で、どのようにして観光客の心をつかむメニューを作り上げたのか。高品質なメニューを安定供給できるようにした秘訣は何なのか。「金目鯛の煮付け」定食が出来上がるまでの開発秘話をお届けします。

年間364日出荷可能!鮮魚を通じて感動を届ける「まるい」
──はじめに、まるい様の事業内容について教えてください。
鈴木大輔(以下、鈴木):株式会社まるいは、千葉県館山市を拠点に、鮮魚の卸売、加工・製造、氷の販売、飲食店経営など、多岐にわたる事業を展開する会社です。私たちの最大の強みは、「365日中、364日出荷できる」 こと。元旦を除き、南房総の鮮魚を毎日お客様にお届けできる供給体制を確立しています。
意外と知らないお客様が多いのですが、一般市場に行っても最高の魚はまず手に入りません。なぜなら、私達のように、目利きができるプロが先に仕入れてしまうからです。鮮魚の世界は、一期一会ならぬ「一魚一会」が当たり前。同じ魚でも、今日と明日では味が違いますし、気候などの影響でそもそも仕入れすら出来ない可能性もあります。常に目利きが問われる、最高に面白い仕事なのです。
私達は、鮮魚を扱うプロとして、魚の目利きには絶対の自信を持っています。現在、当社の売上の約58%は卸売事業が占めており、顧客からのご紹介だけでほぼ仕事が成り立っている状態です。海鮮居酒屋チェーンの「はなの舞」や「目利きの銀次」、スシローなど、有名店から量販店まで様々なところに卸しているので、千葉や東京にお住まいの方なら、皆さん、気づかないうちに当社の魚を召し上がっておられると思います。
とはいえ、これから10年15年で魚の卸売業界は大きく変わっていくでしょう。販売形態一つとっても、かつては一匹丸ごとが主流でしたが、今ではフィレ加工した商品が好まれるようになりました。そこで、当社は時代の変化に合わせて、魚惣菜の加工・製造事業により重きを置いた事業計画を進めています。
2024年4月には水産食品加工工場を立ち上げ、HACCP認定も取得。当日の現地水揚げ現地処理が可能な体制を整えました。今後はアメリカ市場への輸出を視野に、FDA(米国食品医薬品局)の認証取得にも取り組む予定です。

地産地消の目玉商品を求めて。金目鯛の煮付け開発に至るまで
━━経緯について、どのような想いがあったのか、背景をお聞かせいただけますか。
永尾健史(以下、永尾):今回の依頼元であるカフェ・カンパニー株式会社(以下、カフェ・カンパニー)の代表取締役・奈良正徳さんとは、もともと横浜の経営者コミュニティでつながりがありました。
奈良さんはもともと約200店舗以上の店舗の経営・業態開発に携わっていた方で、2024年8月にカフェ・カンパニーの社長に就任されました。鈴木さんから「最も魚の需要があるのはイタリアン」だと話を聞いていたので、仕入れ先として紹介しようと思っていた矢先に、奈良さんの方からこんな相談がもちかけられました。
「千葉市原のサービスエリアでカフェ・カンパニーで運営している飲食店のリニューアルを予定している。そこで、地産地消をテーマに魚を使った定食を展開したい」
あまりのタイミングの良さに驚きながらも、「それなら、ぴったりの人がいますよ」と即座に鈴木さんを紹介し、商品開発を進めていく運びとなりました。最初の時点では、具体的にどんな商品を作るかは決まっていなかったので、鈴木さんにも協力してもらい、つみれや干物など、様々な試作品を用意しました。
その中でも、奈良さんが一番気に入ってくださったのが「近目鯛の煮付け」でした。房総ブランドの高級魚で見た目にも鮮やか、そしてやっぱり味が美味しかったのが決め手だったのだろうと思います。
煮魚の見栄えと味の両立。約20回の試作で仕上げたバランス
鈴木:金目鯛に限らず、魚の煮付けが難しいのは、見た目と味のバランスです。煮る時間が長すぎれば、魚の皮が剥けてしまいますし、身もぐずぐずになってしまいます。真空パックに入れる際に、少しでも形が崩れてしまったら、その時点で商品になりません。逆に、煮る時間が短すぎると、味が中までしみません。
煮魚の味付け自体は、当社在籍の板前が自信を持っている部分ですが、煮汁の量や時間、圧力、温度など、最適なバランスに行き着くまでには苦労しました。永尾さんとも相談しながら、何度も試作・試食を繰り返し、トータル20回近くは作り直したと思います。
加えて、魚は自然のものなので、気候次第で1ヶ月ほとんど獲れなくなるような事態も起こり得ます。そういった事態にも対応できるように、当社の冷凍技術を駆使し、少なくとも1年間は不漁が続いても問題なく商品を供給できる体制も整えました。
永尾:奈良さんからお話を頂いたのが2024年の6月頃で、約1ヶ月半の開発を経て、お盆明けから定食としてパーキングエリアの店舗で販売を始めたわけですが、売れ行きは順調だと伺っています。1食3000円を超す価格帯ですが、インバウンドのお客様をはじめ、お財布にゆとりのある観光客からは好評のようです。
ご期待には応えられたのではないかと思っています。次は伊勢海老を出すか、はたまた房総近海の干物やおさかなピザを取り入れるか。今後も色々なご提案ができると思っていますので、引き続き、鈴木さんのお力をぜひお借りしたいと思っています。
鮮魚を通じて「感動」を世界に。まるいが挑む今後の展望
━━今後の展望についてお聞かせください。
鈴木:私はもともとイタリアンのシェフをしていたこともあり、単に魚を売るだけではなく「お客様に美味しさを届けたい」という気持ちを強く持っています。現在、館山を拠点に「お食事処 佐助どん」という完全予約制の飲食店も自社経営していますが、今後はフランチャイズ展開も取り入れながら、他地域にも拡大していければと考えています。
また、鮮魚の目利きを活かし、加工で付加価値を付けたうえで、海外市場にも「まるいの味」をお届けしたいと考えています。すでに香港のスシローとは取引があるのですが、永尾さんとも協力して、中東市場の開拓などにも挑戦していきたいですね。
水産業界は、日々の仕入れ状況や魚の品質が変動するため、マニュアル化が難しい業界です。以前、AIの専門家に相談したことがあるのですが、自動化は極めて困難だといわれました。そんな業界だからこそ、これから益々、人にしか出来ない「匠の技」の価値が高まっていくと私は確信しています。
まるいでは、現在約28名の社員とともに、日々、鮮魚の品質管理や加工・出荷を行っています。これからも人を育て、彼らが長く働ける環境を整えていくことで、私達だからこそ実現できる「最高の感動」を世界に届けていきたいと思います。
永尾:今後の展開が楽しみです。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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